狙ったわけではありませんが、今ちょうどロシアとウクライナの間で危機が再燃しています。なんでも、クリミア半島周辺のロシアの勝手領海内にウクライナ海軍艇3隻が侵入したため、ロシア側が発砲して拿捕したとか。ポロシェンコ大統領はロシアを非難し、戒厳令を敷きました。これを受けてトランプ大統領も米ロ首脳会談を見送りました。現在、プーチンはメルケルに事態収拾の仲介役を頼んでいるとのことです。
ウクライナは「ロシア VS NATO」の発火点の一つ。ここ2年ほどは比較的落ち着いているように見えますが、それでもウクライナの武器庫が3つも爆破されている。ウクライナの言うように(東部独立勢力も含めた)ロシア側の仕業なのか、それとも両者を戦わせて第三次世界大戦にもって行きたい別の勢力の仕業なのか・・・。
プーチンの態度を硬化させたのは日本の「イージス・アショア」導入が原因だった
ところで最近、北方領土問題を中心とした日ロ交渉がありましたが、プーチンの態度はウンザリするようなものでした。
それまでどちらかと言うと“親日的”だったプーチンですが、(わざと)首脳会談に遅刻するなど、年々、日本に対する態度が悪くなっている。
私自身は、日ロの領土問題に関しては、ロシアが一方的に侵略したのであり、日本側はこと対ロ関係においては第二次大戦中であってもあくまで被害者の立場ですから、今慌てて将来に禍根を残すような解決策を急がなくてよいと思っています。
だいたい、南樺太からして本当は日本領土なんですよ。とっとと返せや、という話。
問題は「なぜ急にプーチンの態度が変わったのか?」ということ。
はっきり原因を言うと、私は日本の「イージス・アショア」導入が主だと思う。
これは日本人とロシア人の問題認識がズレている典型で、ロシア側からすると、おそらく私たちの想像以上に大問題らしい。
ロシア「日本への迎撃システム売却は条約違反」 米を非難 2017.12.31
【AFP=時事】ロシアのセルゲイ・リャブコフ(Sergei Ryabkov)外務次官は30日、米国による陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア(Aegis Ashore)」の日本への売却は核戦力全廃条約に反するものだとして米国を非難した。(略)
「米国はわが国の西側国境近くにあるルーマニアとポーランドの米軍基地に(ミサイル防衛システムを)配備しているが、これはこのようなシステムの地上配備を禁じた1987年の中距離核戦力(INF)廃棄条約に違反している」と前置きしたうえで、「こうした設備が実際にロシアの東側国境にも存在するとなれば、わが国の軍事計画において無視できない状況を生み出すことになる」と警告した。(略)
日本政府は(略)「イージス・アショア」の2基導入を閣議決定していた。
つまり、日本の導入は中距離核戦力問題に関わってくると、あちら側は捕えている。そして、これは本当はロシア包囲網なのだと、怒っている。
前回の記事で、「INF全廃条約」の破棄を取り上げましたが、トランプ大統領はロシア側の条約違反を理由として上げていました。私は前回「アメリカにも大きな責任がある」とだけ触れましたが、はっきり言うと、最初に破ったのはアメリカのほうなんですね。
というか、「ロシアの主観」ではそういうことになっている。
大事なのは真実か否か以上に、ロシアがそう信じているということです。ロシア視点では米国も西側諸国もダマシの常習犯です。それが「ロシアにとっての真実」です。
西側は影で着々とロシア包囲網を築き上げてきた
最初は冷戦末期、ゴルバチョフに対して「ドイツよりも東にNATOを拡大させるつもりはない」と約束して安心させた。ところが、ソ連が崩壊すると、堂々とそれを破った。
西側の大半はこういったことを気にも留めてないが、プーチンもロシア人も、この「公約違反」を今でもかなり「根」に持っている。そして、西側がウクライナの大統領選挙に干渉してきた時、「ついにロシアの裏庭までやって来た」と、危機感を抱いた。
2014年2月のウクライナ政変は異常なものでした。
ヤヌコビッチ大統領は腐敗していましたが、仮にも投票で選ばれた人物です。その合法的に選ばれた政権を暴力的なクーデターで打倒する・・これが民主主義なのか?
しかも、「革命に立ち上がった市民」・・って、あんた、これが“市民”なのかと。
金で雇われた極右の私兵や外国の傭兵たちがキエフで暴れまくったのが事実です。
ちなみに、似たメンタリティなのが、合法的に選ばれた安倍政権に対して「独裁政権ガー! 打倒せよ!」などと喚いている国内の一部。上の“市民”の劣化バージョンみたいなものでしょう。ま、主なスポンサーは南北朝鮮や中国のようですが。
こういう連中が喚き散らすから人々は逆に安倍政権を支持する。逆説的だが、その意味で彼らは最強の安倍応援団だし、事実、自民党工作員が中枢にいる可能性もある。
話を戻すと、これは「影の政府」の対ロ包囲網の一環だったんですね。
当時のオバマも承知の上。現地ではビクトリア・ヌランドと大使のジェフ・パイアットがクーデターを陰で指示していた。ジョン・マケインも応援に駆けつけた。
このあたりは、下の記事でも触れています。
さて、時系列では、その数年前になりますが、この操り人形のオバマは、東欧に対して陸上配備型の弾道ミサイル迎撃システム「SM-3」の配備を進めてきました。
結論から述べると、ポーランドとルーマニアにはすでに設置されました。ポーランドは今年終えたばかりのようです。
プーチン・ロシアからすれば、もともとこれが軍事的なロシア包囲であり、中距離核戦力(INF)廃棄条約に違反しているという認識だったわけです。
プーチン「激おこ」の理由
なぜ迎撃ミサイルの設置が「違反」になるのか?
その理由についてプーチンは力説している。
「Putin’s Warning: Full Speech 2016 世界的危機を警告するプーチンのスピーチ」
この場面は2016年当時、一部で大きな話題になりました。
ただ、当時、日本のメディアでまともに報じたところはなかったように記憶しています。その程度のレベルです。今見たら、日本語訳を付けてくれている人がいました。動画をそのまま見ることをオススメしますが、以下要点だけ引用させていただきます。
プーチンは以下のように、西側のマスコミに、ほとんど絶望している。
どうせ正確に報道しないだろう、自分の局にもまともに働きかけないだろう、と。
だから、あくまで「個人」として伝えると言っている。
私はこの姿勢がよかったと思う。なぜなら、今では大手メディアが報じなくとも、インターネットを通して、真実を知りたいと願う人々に“個人的に”伝わるからです。
こういうのを「ネットde真実」だとか「陰謀論」などと嘲笑っている良識ぶった者たちがいますが、いずれ自分自身が吐いた言葉が跳ね返ってくるでしょう。
プーチンはミサイル迎撃システムについて、こう自説を主張している。
要するに、プーチンは、
ミサイル迎撃システムは相手を攻撃する体制の一部なのだ、
だいたい互いの核ミサイルの撃ち合いの中で使うものじゃないか、
狙われている側からすればそれが防衛用か攻撃用かなんてどうやって分かるのだ、
ちょっと改造すれば普通の中距離弾道ミサイルにもなるじゃないか、
ロシアと西側の平和は軍事的なバランスの上に保たれているものにすぎない、
条約に違反して東欧に“迎撃”ミサイルを置いたらその均衡が崩れるだろ、
ロシアとしても戦争になったら敗北する状況は容認できないので結局は軍事的なリアクションを取らざるをえない、
例によってアメリカはそれをネガティブに喧伝するだろうが。
というようなことを力説している。
彼がひどく苛立っているのは、西側のジャーナリズムが、そういったリスクをまったく理解していないし、報じようとしないからです。
プロなら当然承知しているはずの安全保障の常識を踏まえていないからです。
この理解力の鈍さ、事実を逆さましてまでやっているロシア悪魔化宣伝に対して、彼は堪忍袋の緒が切れ掛かっているわけです。というか、ほとんど匙を投げている。
ちょうど、この苛立ちは、慰安婦問題などの日韓の問題に対するNYTやWSJやBBCの認識や報道に対する日本人の苛立ちと似ているのではないかと思う。
どこまで鈍いんだ、いつになったら本質を理解できるんだ、わざと事実を歪めているんだろ、てめえらは、とそういう感じです。
日本は本当にロシアを敵に回していいのか?
さて、日ロ関係に戻ります。
上のプーチンは、東欧の「イージス・アショア」導入に対して「激おこ」しているわけです。すると、国土の反対側の日本の導入に対しても当然、同じ感情を抱いている。
今のところ、山口県と秋田県に配備して日本全土をカバーするらしい。
たった2基の配備で総額6千億円以上です。報道によると、運用は2023年度からになるらしい。むろん、私たちは「対北朝鮮」用と見なしている。
しかし、ロシアはそうは見ていない。これはロシア包囲網の一環であり、日本が実戦配備することによって、西側の対ロシア東西挟撃体制が完成すると懸念している。
日本側は「運用するのはもちろん自衛隊」としているが、ロシアの疑念を晴らすまでには至っていない。だいたい、対中ロにおいて、自衛隊と在日米軍がほとんど一体化しており、むしろ自衛隊は補完・下請け的役割であることは、私たちも知っている。
だから、ロシアも、それなら北方領土について一切妥協する必要はないという態度になっている。それどころか現地の軍事力を強化する動きに出ている。
大事なのは、プーチンの認識が客観的に見て「正しい」かどうかじゃないんですね。彼がこう思っている、信じている、怒っているということが重要。
なぜなら、彼が世界最強の核兵器保有国ロシアを率いているから。
だから、「日本がロシアの敵に回った」という“彼にとっての真実”が重要。
しかも、大きな視点で見れば、それは本当に真実かもしれない。私たち日本は、知らず知らずのうちにNATOの防波堤役にされようとしているのではないか?
私は日米安保や在日米軍を無くすことがどれほどデメリットになるかについて、普通の人以上に認識しているつもりです。尖閣諸島や先島諸島くらいは強奪されるだろう。
しかし、それでもなお、背に腹は代えられない。ロシアの軍事力は日本とは次元が違う。まともに相手にすると、日本はロシアの核攻撃で滅んでしまうだろう。
この点、イギリスはさすがに覚悟がある。たとえ自国が滅んでも、報復核攻撃によってロシアの3割か4割くらいは道連れにして滅ぼすつもりでいる。人間に例えれば、ロシアは片手・片足くらいは失う。それが幾らかの対英攻撃の躊躇の材料にはなる。
そういう自身の決戦核兵器も持たずに、ロシアの指導者の個人感情を軽視し、ただアメリカの言われるままにしていると、日本は必ずツケを支払う羽目になるでしょう。
早ければほんの数年後に。
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