このドル基軸通貨体制こそ、アメリカが第二次大戦の戦勝によって獲得した最大の利権に他ならない。
本来、ドル紙幣とはアメリカのFRBが発行する自国紙幣にすぎない。だが、アメリカの国璽が印刷された紙がそのまま事実上の「世界通貨」としても通用する。これによって、アメリカは印刷機を回すだけで、海外から天然資源や工業製品を購入することができる。
アメリカ以外の国は汗水垂らして外貨を稼がないと徐々に貧乏になっていくが、アメリカは事実上、貿易赤字が存在しないに等しいので、必ずしも外貨を稼がなくてよい。
毎年、巨額の財政赤字と貿易赤字を計上しながらも、3億のアメリカ人たちが先進国として比較的豊かな生活を享受できるのは、このような基軸通貨特権のおかげに他ならない。世界最強の軍事力とて例外ではない。アメリカの最先端の兵器は、日本製品をはじめとする多くの輸入ハイテク部品に頼っている。それを購入するのもまたドルである。
いずれにせよ、このドル基軸通貨体制が存在するゆえにアメリカが覇権を握っていられるのか、それともアメリカが覇権を握るゆえにドル基軸通貨体制が存在していられるのか、どちらが正解か判断つきかねるくらい、両者は密接に結びついている。
以下、この戦勝国の超特権的体制を「歴史」という「縦軸」で紐解いてみたいが、その際、四つのキーワードを用いたいと思う。
1・ブレトンウッズ体制
20世紀初めの「南アフリカ戦争」(ブーア戦争)はパクス・ブリタニカを完全に終焉づけた。そして、1929年のNY株暴落を発端とする「世界恐慌」により金本位制が崩壊し、以後、世界の経済システムは無秩序化する。
で、このカオス状態に決着をつけたのが、あの世界大戦だったのである。
ここで最初のキーワード、「ブレトンウッズ体制」だ。簡単にいえば、従来の英ポンドに替わり、米ドルに「世界通貨」としての地位を与えたものだ。
ニューハンプシャーのブレトンウッズに連合国が集まり、戦後の通貨体制についての協定を結んだ。具体的には、ドルを世界の基軸通貨とする、金1オンスを35ドルとする、ドルに対して各国通貨の交換比率を定める、等の取り決めだ。
後に敗戦国日本もこの固定相場制に組み込まれ、1ドル=360円とされた。
この通貨体制は金本位制だが、所有している通貨を金に替えようとする人は現実には稀だ。なぜなら、金塊が手元にあっても、通貨としては使えないからだ。だから、実際には、FRBは、金の準備量をはるかに超えた信用を創造することが可能なのである。
ちなみに、またの機会に触れるが、今後発行される「電子コイン・電子マネー」と「円・ドル」の関係も、これと似た経緯をたどることになる。つまり、当初、われわれは電子コインをすぐに円やドルなどの通貨に戻すが、使っているうちに、電子コインそのものを真貨と錯覚するようになり、あえて円やドルなどの政府紙幣に換金しなくなる、ということ。
つまり、今度は円やドルが、かつての金銀のように死蔵される道を歩んでいく。
私の知る限り、この指摘はまだ誰もしていないはず。しかし、これが決定的に重要なのだ。通貨発行と統合の歴史的天才であるユダヤの銀行家は、こういった人間心理というものを大昔からとっくに知悉している。だから「グローバル電子通貨」の発行により、以後、国家紙幣を「ローカル・マイナー通貨」に貶め、世界経済の主導権を握るつもりなのだ。
そして、彼らのプロジェクトは成功するだろう。ほんの数年後に。
2・ニクソン・ショック
第二のキーワードは「ニクソン・ショック」だ。
ケネディ政権による本格介入により、当時、ベトナム戦争は泥沼化し、アメリカの経常収支は赤字に転落する。一方で、独自外交を進めたド・ゴールがドル本位制を不公平と断じ、手持ちのドルをどんどん金に交換していった。これにより、1971年、ニクソンは金輸出禁止(金とドルの交換停止)へと追い込まれた。
実は、また陰謀論だが、ド・ゴールの原爆開発と、ドル・金の交換政策は、公然たる「影の政府」への挑戦だったのである。だから彼も何度も暗殺されかかった。
かくして、金本位制は廃止され、戦後の経済システムであるブレトンウッズ体制は崩壊を余儀なくされた。以来、「紙幣本位制」が未だに続いている。以来、各国通貨は「変動相場制」へと移行し、円も対ドルで大きく切り上がることになる。
ニクソンもまた「影の政府」の命令に違反したため、政治的に暗殺された。ニクソンがド・ゴールを一番尊敬する人物に挙げていたのは有名だ。
3・ワシントン・リヤド密約(協定)
第三は「ワシントン・リヤド密約」である。これはジャーナリストで現在は安倍総理のスピーチライターも務めている谷口智彦氏の『通貨燃ゆ』(日本経済新聞社)に登場する話だが、1974年、キッシンジャーとサウジアラビアとの間である密約が交わされたという。
端的に言えば、アメリカがサウジの安全保障を約束するのと引き換えに、サウジは石油の安定供給及びドル建て取引を約束するというものだ。
石油は現代文明の「基幹資源」である。それがドルで取引されるということは、金に代わって石油の裏づけを得ることでもある。また、各国は石油をドルで購入し、産油国がそのドルを消費や投資に回すので、ドルの循環・米への還流が起こる。
かくして、ドルは唯一の国際決済通貨の地位を守ることができるというわけだ。
実は、この“ルール”を無視したのがイラクのサダム・フセインだった。彼は石油をユーロで決済しようと言い始めた。その後、彼がどういう運命を辿ったかはご存知の通りだ。アメリカは「大量破壊兵器をもつ独裁者」というレッテルを貼って、軍事力でフセイン政権を叩き潰し、石油利権まで奪ってしまった。イランも同じことを言っているから、徹底的に叩かれている。アメリカは己の特権を守るために汚い真似をしてきたのだ。
4・冷戦終結
だが、アメリカ経済の相対的斜陽は止まらず、85年から債務国へと転落し、双子の赤字が大きな問題になる。西側各国は「プラザ合意」でドルを切り下げた。
逆にいえば、円は対ドルで猛烈に上昇する。この頃、日米貿易摩擦も激しくなり、アメリカでは「日本異質論」や「安保タダ乗り論」が喧伝された。
87年10月のブラックマンデーでは株価が一挙に2割も下落し、1兆ドルが吹き飛んだが、日経平均は世界株安からいち早く回復して、バブルの絶頂期を目指していく。
さて、最後のキーワードが「冷戦終結」だ。ソ連は瓦解し、東西冷戦はアメリカの勝利で終わった。これは経済面から見ると、米ドル圏が一挙に「東側」へと拡大したと言い表すこともできる。ロシアのルーブルは紙切れ同然になり、ロシア人でさえドルを手に入れようと躍起になった。しかも、90年を境に日本のバブル経済も崩壊し、経済面でのライバルも脱落した格好だ。つまり、アメリカにとって邪魔な存在が同時に倒れた。
果たして、日本のバブル経済崩壊の真相とは何だったのか。偶然か、それとも陰謀か? 以下の記事に記してあるのでぜひとも目を通してほしい。
さらに、湾岸戦争の圧倒的勝利は、アメリカが唯一の盟主たることを世界にアピールする結果となった。アメリカは威信を回復し、その圧倒的存在感がドルの信頼回復にも繋がった。かくして、戦勝国によって作られた大戦後の新秩序は「ポスト冷戦バージョン」へと改訂された。一言でいうなら、それは「アメリカ一極支配体制」である。
しかも、90年代も半ばに入ると、レーガン政権時代の税制改革と規制緩和が功を奏し始めて、アメリカ経済が活性化し、様々なイノベーションが創出され始めた。
その代表がIT革命であり、たちまち成長産業と化した。世界中からアメリカに資金が流入するようになり、ニューエコノミーともてはやされた。
こうして、日本がポストバブルに苦しんでいる間、アメリカ経済は拡大を続け、空前の繁栄を迎えるまでに至った。
基本的には、この流れが現在まで続いているか、もしくは2008年のリーマンショックでいったん区切りがつき、以後「多極化時代」に突入したと見なせるかもしれない。
かの経済学者のミルトン・フリードマンは、「われわれは紙幣本位制という歴史上類のない時代を経験している」と言う。そして、「現在の紙幣本位制がどこへ行き着くのか誰にも分からない」とも言っている。
実のところ、まったく前例がないわけではない。それがモンゴル帝国の「交鈔」だ。それについては、以下の記事で触れた。
モンゴル帝国は、単に広大な領土を征服しただけでなく、商業を保護し、通商路の整備とその安全保障にも務めたため、当時の商人から国際的な信用を獲得した。それを背景に、当初は銀に裏づけされた「交鈔」の不換紙幣化にも成功した。
だが、この紙幣は財政上の理由から次第に乱発され、インフレと化して、最終的には紙切れとなったのである。
東西世界を初めて連結したと言われる世界帝国の交鈔と、やはり東西世界を一つの経済圏にまとめたアメリカ帝国の紙幣……両者の類似点はドルの行く末をも暗示している。
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