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中東戦争のタイムリミットが近い?

2013年の3月に入ってから、いろいろと気になる動きが相次ぎました。以下、一般に報道されている内容を基にして、私なりの考えを述べたいと思います。

まず、イランの国会選挙では、アフマディネジャド大統領の保守派に対して批判的な“超保守派”が勝利しました。率いる宗教指導者のハメネイ師は、「核開発は神の意志であり、シオニスト国家は必ず滅亡する」という意味の過激な発言をしています。

対するイスラエルでは、リクードのネタニヤフ首相が中道派との連立内閣を発足させました。対外姿勢が軟化とも観測されるが、逆に中道派を取り込んだともいう。私の勘違いかもしれませんが、そのまま戦時の挙国一致体制へとスライド可能な布陣にも思えます。

続いて、オバマ大統領がテレビのインタビューに応え、イランの核兵器保有まで1年以上かかるとした上で、それを「レッドライン」(越えてはならない一線)だと釘を刺しました。イランは今や数千台の遠心分離機を動かして濃縮ウランを着々と製造中です。また、大統領は就任後初めてイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相と会談しました。シリアの化学兵器問題や、イランに対する今後の対応などを話し合ったそうです。

世界で一番忙しいアメリカ大統領が三日間も滞在したわけですから、その深刻さがうかがえます。表面的には、アメリカはあくまで外交的な解決を望んでおり、イスラエルの強硬な姿勢を抑えて、イランに対しても忍従しているように見受けられます。少なくともオバマ氏個人はそうでした。ただ、ちょうどハルノートで日本の対米協調派を政治的に根絶やしにしたように、これまで経済制裁でイランを締め上げ、イラン国内の穏健派の立つ瀬をわざわざなくしてきたので、腹の底では何を考えているか分かりません。

今やイスラエルはイランが核兵器を保有する前に行動を起こすことを示唆し、一方のイランは自国の核開発施設が攻撃を受ければ報復としてテルアビブを攻撃すると警告しています。数百発もの核兵器を隠し持つと言われているイスラエルにしてみれば、相手が核を持つ前に戦争に持ち込めば優位に立てる、又はそれ以外に選択肢がない、という判断があるように思われます。いずれにしても、事態が切迫しつつあるようです。

おそらく、今年6月に予定されているイラン大統領選挙が今後を決する一つの材料になるかもしれません。憲法規定からアフマディネジャド氏の退陣は決定済みです。次の大統領が誰になるのか、イスラエルとしてはいったん結果を見届けたい。その上で、外交での解決はやはり不可能と判断すれば、正式に攻撃を決定する。あとはタイミングの問題です。よって、今年の後半から来年の春にかけて、開戦の可能性が高まります。

もっとも、イラクの原子炉を空爆した時とは状況が異なります。極端な話、岩山にトンネルを掘って、そこに遠心分離機を移せば、空爆にも耐えられます。しかも、今回はサダム・フセインを相手にするのとはわけが違う。イランは半民主国家であり、ペルシア帝国の歴史を受け継ぐ偉大な国民国家です。イスラエルとアメリカは、「イラン国民」を敵に回すことになります。第二次大戦型のデスマッチになる可能性があります。

また、イランはかねてから「ホルムズ海峡を封鎖する」と警告しています。原油の迂回路が機能するか、疑わしいものです。イランの立場からすれば、封鎖の政治的効果を失わせないためにも遮断したい。パイプラインなどというものは、狙われたら守りきれるものではありません。イラン軍機が爆撃しなくても、ロケット弾一発で炎上させられるので、工作員やテロリストで十分です。イランが様々なテログループのスポンサーであることは承知の事実です。その際、もっとも悪影響を被るのは日本です。備蓄の取り崩しと節約モードで1年近くは持ちこたえられますが、以後の保証はなく、その間にも目の玉が飛び出るような価格で世界中から原油をかき集めることを余儀なくされるはずです。

イスラムVS西洋の戦いへと発展するか?

ただ、最大の問題は二国間戦争に留まらない可能性があることではないでしょうか。まずアメリカが公然とイスラエルを軍事支援します。この時点で、米本土や各国の米軍基地も攻撃対象になる可能性があります。イギリスもアメリカ側につくので、ロンドンが大規模なテロ攻撃の標的になってもおかしくありません。英仏などは昨年の「アラブの春」に軍事介入した時点で、すでに状況に巻き込まれているのかもしれません。

加勢が欲しいイランもまた、他のイスラム諸国を巻き込み、「イスラム対イスラエル」の“聖戦”という構図へ持っていきたいでしょう。皮肉なことに、昨年からの“民主化”が状況を悪化させる可能性があります。これまでは、各国の独裁政権が国内の矛盾から国民の目を反らす手段として反イスラエル感情を煽ってきましたが、同時にその憎悪をコントロールしてもきました。その結果、「イスラエルをこの世から抹殺したい」という憎悪をたぎらせながらも我慢を強いられてきた人々がアラブ諸国の中にたくさんいます。独裁政権が倒れたことで、むしろ抑圧から解放された“民意”が暴発する危険性はないでしょうか。自身に矛先が向くのを避けるため、“民主的な”政府はそれに迎合するかもしれません。

また、かつての中東戦争との違いとして、西欧諸国に多数のイスラム系移民がいる点も挙げられます。一部の者はテロ事件や一般犯罪との関連が指摘され、移民問題ではすでに憎悪の下地が出来上がっています。既に平和時でさえ、移民による暴動と、市民側の反移民暴動が発生しています。仮に英仏などが凶悪なテロ攻撃にさらされると、その被害次第では、怒り狂った市民から移民が報復される可能性もあります。余りに数が多いので、いったん私刑の標的になると警察力では防衛しきれません。ただ、暴力がまたイスラム側の憎悪を呼び起こすでしょう。こうなると、後は憎悪の連鎖と応酬です。

イスラエルと国境を接するシリア情勢も状況を左右する要素です。現在、内戦が長引き、中露とイランがアサド大統領側、欧米諸国が反体制側の支持に回っています。かつてゴラン高原を奪われたシリアは反イスラエル勢力の筆頭のため、同国の行く末はイラン対イスラエルの対決にも深く関わってきます。ちょうど今、化学兵器の使用問題に焦点が当たっていますが、どちらも「相手が使用した」と主張しています。つい先日、イスラエルが「アサド政権がサリンを使用した」と発表し、オバマ政権の軍事介入を促しました。

近いうちに化学兵器使用によるアサド政権の残虐ぶりが大々的に報じられ、欧米による軍事介入の格好の口実になるかもしれません。西側の市民を戦争へと駆り立てるには政治的正当性と世論操作とが不可欠です。第二次大戦時のような“民主国家VS独裁国家”とか、“善と悪との戦い”といった分かり易い構図ほどいい。おそらく、戦争の受益者によって、イランとシリア、その支援国家はまとめて“悪の枢軸”のカテゴリーに放り込まれ、喧伝されるでしょう。

かくして、「イラン対イスラエル」の戦いが、次第に「イスラム対イスラエル」へと拡大し、さらには「イスラム対欧米」の“文明間戦争”へと発展していく可能性があります。

そうなると、欧米諸国はさながら「新十字軍」の感があります。かつての十字軍遠征は、中世最高の文明を誇ったアラブ世界に対する略奪という面がありました。今回も「悪の独裁者や宗教原理主義との戦い」という大義名分にかこつけて、中東の地下資源に対する権益の回復が実施されるかもしれません。

とりわけ英米の超エリートの中には、「もともと中東の資源は自分たちの物だ」と考えている人たちがいるそうです。自分たちが苦労して石油を発見し、莫大な投資をして開発したのに、次第に分け前に満足できなくなった現地人が資源ナショナリズムを主張し始め、最終的には横取りしてしまった。この行為に対して「契約違反だ、アンフェアだ」と、未だに根を持っている連中がいる。彼ら的には、この種の約束破りは、時間が経ったからといって許せる筋のものではないようです。

結局はイスラエルが地上から消滅する?

むろん、イスラム側にも言い分はあります。今日の中東のひどい混乱は、西欧諸国による植民地支配と勝手な国境の線引きに原因するというのが史実です。その土地の自生的な政治・文化・宗教情勢をほとんど無視したため、第二次大戦直後からその矛盾がえんえんと噴出す形で地域での戦争や対立が続いています。ある意味、彼らは西欧諸国のせいで互いに殺し合いをしなければならない羽目に陥った。だから、長らくヨーロッパに在住している人に訊くと、今日でも、アラブ系移民の中には、西欧に対する被害者意識というか、やや薄気味悪く思えるような恨みの感情を持つ人が少なくないそうです。

そのような歴史的経緯もあり、この地域ではイスラム回帰主義(*原理主義ではない)が広範囲で強まってきました。おそらく、かつてのイスラム帝国やオスマン帝国のように、最終的に中東・北アフリカ一帯を治める帝国ないし連邦が出現しない限り、紛争が亡くならないかもしれません。つまり、民族や部族、宗派の分布を考慮しない今の人工的な国境線による人工的な国家は、結局は解体されるか、より大きなフレームの中に吸収されていく、というわけです。イラクが事実上分裂したもの、昨年の「アラブの春」も、またシリアで宗派間抗争が勃発したのも、その大きな流れの一環かもしれません。

ただ、「新イスラム帝国の誕生」をもって地域がようやく均衡するとすれば、イスラエルの扱いはどうなるのでしょうか。異教にも寛容な本来のイスラムであれば自治を得たでしょうが、パレスチナ人に対する仕打ちのようにあまりに酷いことをしてきたので、まず居場所はないと思われます。つまり、ユダヤ人はまた追放か、抹殺の憂き目に会う。それゆえイスラエルは存亡を賭けて、この地域の巨大な潮流と抗い続けるほかありません。生きるか死ぬかですから、次の中東戦争は核戦争になってもおかしくありません。今回はそこにヨーロッパとイスラム世界の歴史的な遺恨も関わってくる形になります。これはもう、どちらが正義で悪かというレベルの問題ではなく、人類の「業」のようなものでしょう。

願わくば、少しでも戦禍を食い止めるため、今や西欧の盟主たる感のあるドイツだけは、賢明にもかつてのフリードリヒ2世のように振舞ってもらいたいものです。また、広い意味で西側に属し、幸いにしてイスラム世界からも信頼されている日本が、文明間の仲介に果たせる役割も大きいのではないでしょうか(*ちなみに、東京がオリンピック開催地に選ばれる見込みはないので、辞退してイスタンブールを推してはどうでしょうか)。

2013年05月02日「アゴラ」掲載

(再掲時付記:この記事を書いてから早3年。東京五輪の開催は決まりましたが、「イスラム対欧米」のほうは徐々に現実味を帯びてきて、不気味ですね)

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