さてさて、読売新聞の6月17日の報道によると、米政府は北朝鮮に対して、核計画の全容を数週間以内に申告するよう求めているという。
つまり、7月半ばまでには正直に明らかにしろ、というわけだ。
今回の要求には「北朝鮮が非核化に迅速に取り組むつもりがあるかどうかを見極める判断材料とする狙い」もあり、ポンペオ国務長官は「非核化措置」の検証対象として、核兵器の保有量や保管場所、核開発技術、核物質製造施設などを挙げている。
17日には河野外相がNHKの番組に出演。北朝鮮の非核化の工程で米国が想定する項目が47に上がることを明らかにしている。ポンペオの説明では、47項目には「核だけでなく、生物兵器、化学兵器、ミサイル、核関連施設、(ウラン)濃縮施設、再処理施設もある」ということだ。河野氏は「47項目をいちいち列挙できないので、それを『非核化』という言葉で代表させている」と述べている。
北朝鮮は、2020年の米大統領選までには、おおむねこれらの非核化をやり遂げねばならないが、以前述べたように、私見では核弾頭と核物質の申告・提出は、プロセスの中でもっとも早期に来るはずだ。だから、それらの猶予はせいぜい1年だろう。
つまり、アメリカは完全非核化に関して何ら手を抜くつもりはない。
首脳会談よりもこれから米朝が協議する「ロードマップ」こそが焦点
というわけで、北朝鮮は、これまで30年にわたって国家の総力を挙げて開発し築き上げてきた国家資産・民族資産を、根こそぎ放棄させられるわけだ。
しかも、二度と開発できない「不可逆的措置」まで求められている。
どういう訳か、6月12日の米朝首脳会談の後、「過去の過ちの繰り返し」論が噴出した。つまり、トランプが妥協して、結局、北朝鮮がまんまと出し抜いた、というのである。これはどちらかというと、北朝鮮に対して厳しい右派に多い主張だ。
対して、左派は、例によって「国際社会が朝鮮半島の和平へと舵を切った、日本だけがこの流れに取り残された、安倍は圧力外交をやめろ」という主張を繰り替えすだけ。
私は識者でも何でもないただのライターだが、こういった右派や左派の主張は、北朝鮮がこれから背負う地獄を理解していないという意味で、ともに問題があると思う。
北朝鮮がすべての核計画を申告し、破棄することは、国連安保理決議という「国際法」と、6カ国協議の共同文書という多国間の「契約」によってすでに明記されている。
よって、6・12米朝共同声明という「合意」によって、必ずしも同様の文言を繰り返す必要はない。過去の法と契約で、核の全面放棄はすでに謳われている。
だから、ポイントは「非核化の実務」にある。
つまり、ロードマップこそが今回の米朝会談の要だと私は考えている。
今、米国の専門家が非核化の工程表を作成しているという。
北朝鮮は数週間以内にすべての核計画を完全かつ正確に申告しなければならない。
報道によると、その申告内容が事実かどうかを検証する査察の権限や条件をめぐり米朝間の協議は難航が予想されるというニュアンスだが、安倍総理が「核査察の費用を持つ」と明言して機先を制したこともあり、いずれにしても北朝鮮には逃れる術はない。
すると、「トランプが過去の政権の過ちを繰り返して北朝鮮に妥協した、だから北朝鮮外交の勝利なのだ」という見方が、極めて表層的であることが分かる。
しかも、アメリカは「経済支援はしない」と明言している。せいぜい、体制保証とか、これまでの制裁の解除とか、その程度の“見返り”である。
北朝鮮側の犠牲に比べると、取引にも何にもなっていないことが分かる。
要は、武力で脅して、核放棄を一方的に強いているだけだ。
その本質がいささかも揺らいでいない以上、「金正恩の勝ち」だの「米朝和解」だのといった主張は、まったく見当外れもいいところだというのが私の感想である。
金正恩がどれほどの地獄に直面しているか想像せよ
私は5月1日の時点で「北朝鮮がこれから強いられる地獄の三択」を挙げた。
第一に、完全非核化に合意せず、米朝首脳会談を決裂させたら、米が軍事行動を発動。
第二に、空約束して、その場をしのいだとしても、やはり後から軍事行動。
第三に、本当に、律儀に、完全非核化を実施したら、米の軍事行動はない。その代わり、北朝鮮からすれば、国を明け渡して降伏するのと同じ。
私は「北朝鮮としては「空約束」以外に選択肢はない」だろうと述べた。
よって、少しでも延命したい北朝鮮は核放棄に合意するかもしれない。そして、「騙すのなら徹底的に騙せ」とばかり、平和と友好のムードを精一杯盛り上げるだろう。
そして、そこから先の実行段階で、少しでも先延ばししようとする。
ここがやはり日本人と朝鮮人の違いか。
日本はハルノートを突きつけられた時、暴発した。ところが、朝鮮人はいったん“ハルノート”を飲むのではないか。そうやって名誉のための戦いよりも、あくまで寝技に持ち込んで相手を欺こうとする。
しかし、この選択ですら、その時間稼ぎの間に状況が急変しなければ、結局は戦争になるだけ。なぜなら、どこかの時点で空約束の鍍金が剥げてしまうから。
査察チームは核関連施設の規模と押収した資料、関係者への面談等から、北朝鮮が製造した兵器級核物質の量をかなり正確に推定するだろう。あるいは、科学者の誰かを買収して未申告の秘密のウラン濃縮施設の存在を嗅ぎつけるかもしれない。
その瞬間、アウト。また、北が露骨に調査を妨害したと見なされてもアウト。
よって、「空約束」を選んでも、結局は開戦時期が伸びるだけの話になる。
そして、その空約束がばれてしまうかもしれないというのが、これからやる、非核化工程表作成のための米朝交渉なのである。早ければこの時点で鍍金が剥げる。
だから、金正恩は今、パニック状態ではないか。
と思っていたら、なんと、金正恩が三度目の訪中をしたというニュースが入ってきた。これに関して様々な憶測が飛び交っていて、当然、米朝交渉に際して習近平の後ろ盾を得たい思惑もあるだろうが、中国のほうも米朝接近を警戒しているとの観測もある。
しかし、私はもっと単純だと思う。
「わーん(半泣き)、アメリカから『核計画の全容を数週間以内に申告しろ』とガンガン要求されてますう。私はどうしたらいいんですかあ~っ!?」
つまり、慌てて習近平のところに相談に行ったというのが真相ではないか。
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