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なぜ金正恩には非核化ができないのか? 米朝交渉は太平洋戦争前の日米交渉だ

出典:sputniknews

4月20日の金正恩の党中央委員会総会での演説が大きく報じられています。

「われわれには、いかなる核実験、中長距離や大陸間弾道ミサイル発射も必要がなくなった。北部核実験場も自己の使命を終えた」

つまり、以後、核実験とICBM発射実験を中止し、咸鏡北道(ハムギョンブクト)豊渓里(プンゲリ)の核実験場を廃棄することを宣言したのです。

予定されている米朝首脳会談に向けた対外的な歩み寄りのメッセージですが、朝鮮中央通信がテレビニュースとして報じたように、対内的な宣言でもありました。

しかし、注意が必要なのは、要は「核兵器と弾道ミサイルが完成したから、もう実験なんかする必要はないよ」と言っていることです。

本当に核放棄するつもりなら、兵器も含めて「すべて放棄する」と宣言するわけで、こんなもって回った発言にはならない。

つまり、金正恩は本当に非核化するつもりはない。

いや、というより、できない!

なにしろ、金正恩は、これまで自身の偉業として、核兵器開発の成功を大々的に国内に向けて宣伝してきました。わざわざ憲法にも核保有国化した事実を謳いました。

もはや、それは全朝鮮人民軍の誇りであり、全人民の誇りであるわけです。

いかに独裁者といえども、できることと、できないことがある。



それは金正恩にとって全面降伏と同じで政治的に実行不可能!

前も言いましたが、トランプ政権が譲らない「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」とは、北朝鮮からすれば全面的に国を明け渡すことと同じです。

というのも、「非核化」の本質は、兵器級ウラン・プルトニウムやウラン濃縮施設などの完全廃棄にあるからです。実は、これらは、どこにでも隠すことが可能です。

極秘の地下200メートルの軍事基地に隠せば、外部の誰にも分かりません。

とくに兵器級の核物質は手の平に乗るくらいの金属の球です。どこにでも隠せる。

これさえあれば、仮に既存の核兵器・起爆装置などを破棄した後でも、元の技術者チームや工作機械などが残っていれば、短期間のうちに“再核武装”が可能です。

隠匿が簡単な以上、北朝鮮が正直にすべて差し出すことは100%ありません。

むろん、IAEAの査察チームも、北朝鮮の申告を真に受けませんから、必然的にCIAなどから貰った情報を元に、あちこち探し回ることになります。

査察チームが「○○にある基地内に立ち入りたい」と要求した際、非核化に合意した北朝鮮はそれを拒むことはできませんし、拒めば妨害と見なされます。

だから、私はちょうど一年前に、すでに次のように記していたわけです。

真珠湾攻撃前の日本と似ている北朝鮮の立場
みなさん、こんにちは。 遅きに失した感があるが、ようやく北朝鮮問題の焦点が明白になりました。 まずは前回も紹介したこのロイター電(太字傍線筆者)。 核放棄なら米朝首脳会談も  2017年 05月 9日 02:01 JST ...

(前略)北朝鮮は何十キロという長大な地下トンネルや地下施設に、核・ミサイル関連の工場や研究所、部品・製品などを隠している。

よって、開発放棄を証明するためには、それらのすべてに査察官が自由に立ち入り検査できるよう、認めなければならない。朝鮮人民軍からしたら、あらゆる軍事機密が筒抜けになるのと同じだ。

平たくいえば、これは「全面的に国を明け渡す」ということに等しい。どれだけ金正恩が独裁者だろうが、対国内での政治的立場というものがある。今まで散々、核・ミサイルの開発の成功を国威発揚に利用し、人民の対米敵愾心を煽ってきた。いかに独裁者とはいえ、米国に全面服従する真似をして、対内的な権力が保てようか。

しかも、そうまでしても安泰という保証はない。私は前回こう記しました。

「北朝鮮は30年にもわたり、莫大なコストと労力を投じて、地道に核・ミサイルを開発してきました。その「開発」を放棄せよ、という。

しかし、そうやって放棄して「丸裸」になった後に、カダフィがどうなったか? 彼は欧米諸国からリビアの資金を欧米の銀行に移すように要請され、あちこちに20兆円くらい振り込んだそうです。その後、民主化デモを仕掛けられ、軍事侵攻され、挙句に殺されました。その20兆円は欧米に強奪されたままになっているという。」

リビアは今も国がめちゃくちゃな状態です。大量破壊兵器を放棄して西側に妥協したカダフィの末路がどうなったか、金正恩としても他人事ではないはずだ。

分かりますね? 国を明け渡さないと、検証なんて不可能なんです。

しかも、北朝鮮からすると、その過程ですべての軍事機密が丸裸になる。どこにどんな部隊がいて、どんな兵器があるのか、すべて筒抜けになる。

さらに、そうまでして、それに見合うだけの莫大な経済的見返りを貰えるのか。なにしろ祖父の金日成の時代から核開発に国力を傾斜してきたわけです。

先日の中朝首脳会談において、金正恩は習近平に対して、核放棄に応じるには「全面的な補償を受けられること」が条件であると述べました。

しかし、そもそも日米は北朝鮮が具体的に非核化を実行しない限り、大きな経済支援をするつもりはない。国内政治的にも独裁国相手に大きな援助はできない。

ましてや、日本の場合には拉致問題がある。これを全面解決しない限り、日本が国交正常化したり、大きな経済支援することはありえません。

とすれば、常識的に考えて、金正恩にとって「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」なるものが政治的に実行不可能なことが分かります。いかに気ままに部下を処刑できる独裁者といえども、それ相応の見返りもなしに最大の敵国に譲歩はできない。

やはり米朝交渉は太平洋戦争前の日米交渉をなぞっている

だから私はずっと言っているんです。

アメリカの対北要求は“ハルノート”なのだと。

やはり、現状は日米開戦前に似ている。

当時の日米は、和平に向けて長々と交渉を重ねていました。当時の日本は、ドイツの開戦に乗じて、東南アジアにおける英仏蘭の植民地を奪うことを考えていました。

これは当時の帝国国策要綱の場でちゃんと議論されています。しかも、ドイツが戦勝したらドイツに横取りされるじゃないか、という心配までしていた。

世界支配層に属するルーズベルト政権は、米国民の孤立主義への望みとは裏腹に、日本軍から英仏蘭の植民地を防衛したい、また、日本の対独協力を断ちつつ一刻も早く欧州戦線に参戦してナチスドイツを打ち負かしたい、という方針でした。

世界支配層はもともとヒトラーをコントロールしていましたが、彼はその統制を離脱して反逆し、全欧州の征服を試みたわけです。つまり、スターリンに続いてヒトラーも彼らを裏切った。しかも、日本が陸軍と大衆勢力の台頭で親英米から反英米に転換した。

当時の世界支配層は一時的に世界をコントロールできなくなり、相当焦っていたと思います。彼らの起死回生策が、一刻も早いアメリカの参戦でした。

だからルーズベルト政権は、日本側の要望は一切受け入れず、中国及び仏領インドシナからの完全な撤兵を突きつけたわけです。いわゆるハルノートです。

米東海岸に小さな国を作った連中は、大陸全体を侵略して、メキシコを侵略して国土の半分を強奪して、中南米を侵略して、ハワイ・フィリピンを侵略して、それで日本に対して「今すぐに全中国から出て行け、中国にある権益を放棄せよ」と迫ったわけです。

日本側の要望は一切きかないが、日本のほうはオレの要求を飲めと。

こういうのは「外交交渉」とはいわない。だから日本は外交的解決を断念した。

何度も言っていますが、アメリカ人の目から見たら、北朝鮮は旧日本軍の再来です。

不愉快であろうが何であろうが、彼らの目には、北朝鮮とかつての日本が二重写しになっている。そして、真珠湾攻撃とは日本を暴発させた“成功体験”に他ならない。

北朝鮮はアメリカ側の出した条件を飲めない。飲めないことを承知で米朝首脳会談を打診したのは、こうするより他に仕方がなかったからだとも言える。

しかし、それは騙したとか、査察を妨害したとか、後でそういう軍事の口実に化ける。あるいは戦前の日米交渉のように米朝交渉そのものが決裂するかもしれない。

おそらく、金正恩としては、とりあえず目先の攻撃を回避するための時間稼ぎ的意味合いが濃いのではないか。その間に、トランプ政権崩壊などの米側の政局の混乱、中東で先に大戦が勃発するといった、状況が急変することに一途の望みを託して。

だから、今はメディアが和平ムードを報じているが、状況が急変して、真珠湾攻撃前の日米交渉の再現になるかもしれないことは頭に入れておくべきだ。